イタリアにおいて、唯一シャンパーニュに比肩しうる品質を誇るスパークリングワインに、「フランチャコルタ」がある。シャンパーニュと同じように瓶内二次発酵で造られ、原産地呼称によって製造方法まで規定されている。
では、シャンパーニュと何が違うのか。数字で見えるデータから言えば、まずその規模が違う。現在、フランチャコルタの生産者数は120程だが、シャンパーニュは5,000強。生産量もフランチャコルタはシャンパーニュの5パーセントにも満たないと言われ、それに伴い知名度も流通量も、シャンパーニュには遠くおよばない。歴史に関しても、現在まで続くスタイルのフランチャコルタが作られ始めたのが1970年代から80年代程度なので、シャンパーニュと比べれば随分若い。しかし、新しく始めることができたからこそ、フランチャコルタは80年代頃、この土地に興味を示した企業家からの資金援助をもとに醸造に最新の技術を導入、土壌を細かく分析できた。
その結果、効率よく土地に一番良く合ったブドウを栽培し、高品質の泡を生産することに極めて短い時間内で成功している。そこにシャンパーニュのような長い歴史の中から生まれた試行錯誤と錬金術的なロマンはないが、醸造スタイルのモダンさの中には機能美が生きる。
もう少し進んで地理的に見てみると、フランチャコルタはアルプスを挟んでシャンパーニュの南に位置し、さらにはイゼオ湖が夏冬の極端な暑さと寒さを和らげるため、現地は地中海性気候さながらの緩やかな気候状態を保つ。シャンパーニュよりも温暖な環境で育つブドウはより高い糖度を備え、そのぶん、補糖(ドサージュ)を最小限に抑えることができ、ブドウが本来持つ果実味が生きる。土壌は砂と沈泥が特徴的で、あらゆる形、様々な色の石が見られ、長い年月をかけて氷河によって運ばれた土石の堆積は、フランチャコルタの味の中に特異なミネラル感を表す。
表面上は同じ原産地呼称、共通する製造規定、瓶内二次発酵をうたう泡でも、地理的条件、気候、土壌によって、バラエティー豊かな質的差異が生み出されることは今更言うまでもない。中から覗いて見れば、二つの違いはよくわかる。
イタリアでソムリエとして仕事をするにあたって、当然シャンパーニュとフランチャコルタの使い分けはゲストの趣味、料理の種類なども加味して吟味しなければならないのだが、一つの例を提案したい。
まずは初めの一杯の泡を食前にゆっくりと味わいながら、という場合は、単体で楽しむに適した芳醇なシャンパーニュで。食中酒としては辛口でナチュラルなフランチャコルタ。特に補糖されていないものは、料理の中でもより繊細な味付けの和食とペアリングしやすい。値段やネームバリューとは違った意識を持って選ぶと、双方をより深く楽しむことができるので、シャンパーニュに表からも裏からもアプローチした後には、ぜひ世界の泡を旅するように味わってほしい。