JALワインアドバイザーをはじめ国内外の様々なプロジェクトに招かれ活躍するソムリエ大越基裕氏。ワインはもちろん、日本酒やコーヒーまでジャンルを超えてテイスターとして引っ張りだこの彼が、自身が事業主としては初めてのプロジェクト「Art of Champagne」を始動した。
「Art of Champagne」は、動画配信サービスにシャンパーニュの頒布会を組み合わせたユニークなもの。昨年の夏に行われたシャンパーニュでの現地取材は全14生産者を徹底的に取材し、17村すべてのグラン・クリュをドローンによる空撮映像に収めた。
公開をスタートしたArt of Champagneについて、その舞台裏に迫った。(取材日:2017年6月29日)
僕自身が一番ワクワクし、一番見たかったものを見ることができました。
−−早速ですが、サービスの中心となる映像について聞かせてください。
映像は昨年の7月に数週間取材を行い、そこで撮影した膨大な映像を元に制作しました。普段、映画やCM業界を中心に活躍しているカメラマン、ビデオディレクターをプロジェクトチームに招き入れ、現地にかなり本格的なカメラや機材を持ち込みました。
僕は現地のコーディネーターや通訳も兼ねてべったり張り付きで取材に同行しましたが、振り返って、やっぱり一番印象に残っているのはドローン撮影ですね。
シャンパーニュの17村にある全てのグラン・クリュの畑をドローンで撮影するというのは、おそらく世界でも初めての試みだったと思います。
結論から言うと、僕自身が一番ワクワクし、一番見たかったものが見ることができたと感じています。
シャンパーニュにもテロワールがあることが腑に落ちる体験
実は、昔シャンパーニュは好きではなくて。(まだソムリエになりたての頃ですが)
というのは、何かシャンパーニュというものにテロワールというイメージを抱けなかったから。
今となって思うのは、テロワールを知っているからこそ、各地の細かな味わいの違いを知っているからこそ、それらを織りなして一つのシャンパーニュという作品ができることが理解できる。
僕はこれまで何度となくシャンパーニュは訪れていますし、ワイン業界の方、ソムリエも、情報として知っているシャンパーニュのグラン・クリュというものはもちろんあると思います。しかし、今回それを空から見ることができたのは、とても新鮮で新しい情報でした。
例えばそのエリアに、起伏の差、斜面の向き、どのような自然環境が周りにあるか、どれくらいの距離感だったのか。
そういう本当に細かいことですが、上から見ることでしかわからないことがこれだけあるんだな、と初めてわかったこと。
その一つ一つの差異、テロワールから味わいが生まれているんだとあらためて理解することができました。
現地に取材で同行した僕が一番楽しみ、勉強になり、新しい知識を得ることができました。
−−今回訪問したメゾンは大手から小規模生産者までバラエティに富んでいますね。
そうですね、空から見た畑にも、それぞれの特徴が表れています。
余談ですが、慣れない撮影や取材で硬い表情だった彼らが、自分の畑を初めて上空から見て、非常に興奮し、驚き、喜んでくれました。それも嬉しい副産物でしたね。
シャンパーニュの真髄、本質を垣間見たクリュッグでのインタビュー
−−生産者についてのエピソードがあれば教えてください。
クリュッグは数多く訪ねた生産者の一つですが、長時間にわたるインタビューに応じてくれました。Chef de CaveのEric Lebel氏の話を聞いてあらためて認識したことは、このような大手メゾンが一番大事にしていることの一つが、やはりアッサンブラージュだなと。
土地のテロワールだったり、収穫年の個性だったりを大事にして、それをどのようにアッサンブラージュし、一つの個性を作り上げていくかに集中している。特にクリュッグの場合、アッサンブラージュを担うチームの構成も、大変な手間暇と人員をかけており、チーム一丸となっていますね。
彼らが例えるように、出来上がったクリュッグのシャンパーニュは多重奏のオーケストラのようだし、それを造りあげるチームもオーケストラなんだと。印象的な表現です。
オーケストラによって奏でられる一つのグランド・キュヴェ。その作品に対する想いの強さ。それを映像を通じて強く感じられると思います。
シャンパーニュ・メゾンの奥の奥まで
−−インタビューの他にどのようなシーンが観れるのですか?
今回の訪問では、本当にたくさんの生産者の元で取材を行いました。兼ねてから親交のある造り手だからこそ、普段の訪問ではなかなか覗けないような、奥の奥の奥までカメラを通してもらえました。
彼らの造りのこだわりの、本質の部分を見せてもらって本当にシャンパーニュの作り方一つとっても、方法は多岐にわたるということが映像に収められたと思います。
例えば前述のクリュッグの場合、一般の訪問はもちろん受け付けず、プロフェッショナルに対しても見せることは稀である、メゾンの奥の奥の映像も中にはあります。実際に訪問する以上のものが観れるという自負はあります。
クリュッグをこれまで何度も飲んだことがある方も、映像を見ながらクリュッグを飲むことをぜひ体験していただきたいです。
それによって美味しくなることは、実際ありません。というより、クリュッグはもともと最高に美味しいですから(笑)
ただ、クリュッグのエリックと語らいながら試飲をしているような、彼の導きでメゾンの奥に招かれ見学をさせてもらっているような疑似体験とともにシャンパーニュを飲む体験は美味しい以上の体験だと思います。
仕上がった映像は、あらためて見返すと非常に情報量が多く、専門的な用語も多数出てきますから、ある意味とてもマニアックでプロ向けの映像です。その補助教材として、毎回ガイドブックをつけています。写真もとても綺麗で、商業雑誌で一般的に使用される印刷解像度以上で仕上げました。全7冊お楽しみいただければと思います。
Art of Champagneはワイン愛好家の方はもちろん、プロのソムリエやサービスマンの方にも、僕と同じ体験をぜひしていただけたらな、と思います。シャンパーニュの真髄、本質を垣間見れると思います。